『音楽の記憶』に関するめも書き

前回更新した『音楽の記憶』の、解説部分で言及されている「純粋の同胞団(イフワーヌル・サファー:Ikhwanu ‘l-safa)」について、井筒俊彦氏の著書「イスラーム思想史」に詳細がありました。以下に引用します。


・・・一体「純正同胞会」なるものは、さきにも触れた通り、イスラームの二代教派の一つであるシーア派の中でも特に極端過激な分子として当のシーア派そのものからも異端とされたイスマーイール派が、恐らく政治的弾圧を遁れようとする目的をもって結成した宗教的政治秘密結社のようなものであって、その成立年代を正確に知ることは出来ないが、ともかく西暦十世紀=回教暦四世紀には既に堂々たる一大結社となり、バスラ市に総本部を有してイスラーム世界を席巻せんばかりの勢を示していた。純粋な哲学研究はこの同胞会の直接の目的ではなく、会員が相互に助け合いつつ敬虔な修行によって精神を鍛錬し、それによって地上生活の物質的繁縛から人間霊魂を解放し「純正」にし、天上の本来の故郷に還元させようとするものなのである。
(第三部:スコラ哲学-東方イスラーム哲学の発展 四:純正同胞会 p256)

本館で紹介している『ルーミー詩撰』については、解説部分も特に注意書きのない限り底本に使用しているR.Aニコルソン教授のものです。ニコルソン教授は「Ikhwanu ‘l-safa」と表音していますが、井筒氏は「Ikhwan as-Safa」としていました。


・・・各会員は禁欲的苦行を行持することによって魂を覆隠する物質的被膜を除去するに努めると共に、哲学的思索の深化似よって現象会の真諦を認識し、またその現象界に顕現している普遍的諧調と深遠な象徴性とを把握し、それによって一段一段と全宇宙の秘義の内奥に迫って行こうとするのである。現世は儚い仮の宿であるが、この現世在住の間、霊魂は物質の桎梏に纏綿されて不純不浄な状態に堕している。この不幸な霊魂を、真の認識と敬虔な行為との二つの手段によって浄化し、地上生活の牢獄から一刻も早く解放してその神聖な太源に「還行(マアード:ma'ad)」させることが存在の最高目的なのである。
(同書同部 p257)

その「純正同胞会」にて論議されたもろもろを集めたものは現在「教書」と呼ばれて私たちの知り得るところとなっています。ニコルソン教授がひっぱって来たのもこの「教書」なるものにある記述であるかと。

※底本には参考文献に関する言及はありません。

「純正同胞会」の説いた新プラトン主義は当時の一般ムスリムの知的好奇心を相当に満たしたようで、


・・・たちまちのうちに東方イスラーム諸国全土に弘まり、さらに驚くべき速度をもって西進し、西暦十一世紀の初頭には早くもスペイン及び北アフリカの思想界を新プラトニズムの色彩にぬりつぶすまでに至った。
(同書同部 p262)

同書のISBNコードだとか画像だとか、表示したいのはやまやまなのですが使い勝手がまだ良く分かりません。とりあえず本日のめも書きはここまでです。

おやすみなさい、良い夢を。