『神秘主義のエクリチュール』

神秘主義のエクリチュール

神秘主義のエクリチュール

背表紙の解説から抜粋しましょう。

神秘主義といえば超自然的な力や出来事を思い浮かべる人が多いだろう。けれども肉体を切り裂かれて復活することを奇蹟というなら、アメーバは刻々とそれをくり返している。崖淵から身を翻してなお傷つかないことや肩に手を当てるだけで肩こりが治るのを神秘だというなら、風に乗る鳥やはじめから肩のない烏賊は笑うだろう。鬼面人を威す超能力や奇蹟の類は神秘主義の本道ではない。
一方、難解な言語と概念を駆使し、世界や宇宙の秘密の鍵を解かんと超高級形而上学に耽ったところで、神秘主義の何たるかがわかるわけではない。
本書は良寛と貞信尼の相聞歌やイスラーム神秘主義の精華スフラワルディーなど、時空を超えて存在する多様なエクリチュールをテクストとして、あらゆる宗派・教義・神学の違いを抱越する一つの確かな知恵のありかを探り、静かで暖かく真剣で奥深い宗教的知恵のたたずまいを示す。読者をして胸のふくらむような自由な舞い出しに誘い、光と香気に満ちた神秘主義の秘密を鮮やかに解明する。

著者の故・五十嵐氏については改めてあれこれ説明する必要もないかと思います。かの事件のおかげで、もともと遅れていた日本のイスラーム研究は更に10年遅れた、とも言われています。

個人的には、同時にイスラーム研究のみならず宗教そのものに対する「理解しようという努力」を放棄せしめたというか、「思考停止」しちゃったというか、そんな感じもします。

五十嵐氏ご自身の不在による不幸というのはもちろん言わずもがなです。著作や訳書は非常に重要なものばかりなのに、ほとんどが入手困難なのも事件の影響なのでしょうか。だとしたらとても悲しいことです。