『金持ちの商人と西のダルヴィーシュ』2/2

マウラーナの住まう館へは、その友人を名乗る男が案内してくれた。タブリーズの商人は彼に連れられて、マウラーナの館と、道場へと向かった。

マウラーナは道場にいた。彼は弟子達に講義をしている最中で、内容は今まさに核心に触れようとするところだった。一言も聞き漏らすまいとする弟子達の、控えめながらも情熱に満ちた態度と、それに応じるマウラーナとで醸成される講義の雰囲気は、タブリーズの商人にとって好ましいものに思えた。新参者の彼のために、無言のうちに席が用意され、座るなりタブリーズの商人はたちまち講義に引き込まれた。

やがて講義が終わり、呆然と座り込んだままのタブリーズの商人の眼と、マウラーナの眼が合った。それだけで、感動のあまりタブリーズの商人はさめざめと泣き出した。マウラーナは言った。

「あなたの包んだ50ディナールは生かされよう。だが、(あなたが昨日の聖者に支払った)20ディナールについては気の毒だった」

「とは言え、それは無駄ではなかった。あなたがここへたどり着くには、それ以外の道は用意されていなかったのだから」

「今日という日を境に思い煩う必要もなくなる。悪運が、この先あなたの商売を害することもない」

これを聞いて、タブリーズの商人はますます感じ入った。こちらが何か言う前に、心を見透かされるというのは初めての経験だった。マウラーナはさらに続けて言った。

「あなたの悪運の原因は、以前のあなたの行いによる。西のフランク達(※ヨーロッパ人達)の居住区に立ち入った際のことを憶えておられるか?あなたは、道ばたに倒れ込んでいる男の前を通り過ぎた。彼は青い眼をした、フランクのダルヴィーシュだった。彼の身なりの貧しさを、彼の出自を、あなたは卑しんだ。彼の不運が自分に及ぶのを恐れ、あなたは彼を見捨てた」

「あなたの仕打ちは、彼の心を傷つけた。それ以来、あなたの商売はことごとく失敗しているが、それもこれも、元を辿ればあなた自身の心にある偏見と優越感が原因となっている」

「さて、原因が分かれば問題を解決するのは簡単なことだ。行ってあのダルヴィーシュに会いなさい。そして彼に許しを乞い、出来る限りの償いをしなさい。それから彼に伝えておくれ、私が彼のために祈っていると」

タブリーズの商人はただ驚くばかりだった。だが一体どこをどう探せば出会えるのだろう?マウラーナは商人に、フランクのダルヴィーシュに会う用意は出来ているか、と尋ねた。商人に否はなかった。「見なさい」。マウラーナが道場の壁をひと撫ですると、そこに扉が現れた。「見なさい」。マウラーナに促されるままに扉の向こうを覗き見ようと、商人は一歩前へ踏み出した。

扉の向こう側に、いつか通ったフランクの居住区の通りが現れた。そしてその通りの片隅に、フランクのダルヴィーシュがうずくまっているのも、あの日の光景そのままだった。

タブリーズの商人は駆け寄ってダルヴィーシュに声をかけた。彼に詫び、彼の窮状を救うためなら何でもすると伝えた。商人を見て、ダルヴィーシュは言った。

「私には何ほどの力もありません。私がこうしてあなたにお目にかかれたのも神の力によるもの。それでも良ければ、さあ、もっと近くへ」。商人がダルヴィーシュに近づくと、ダルヴィーシュは喜んで彼の喜捨を受け入れ、彼を抱擁し、額に接吻し、こう言った。

「さて、私は私を助けてくれたあなたの親切に報いましょう。私の師をあなたに紹介しましょう。あなたが探し求めている、精神の糧を与え、徳を高めるのを手助けしてくれる聖者を」

フランクのダルヴィーシュが指差す方を、商人は見た。出自も年齢も、身なりも様々な人々が音楽を奏で、回旋する光景があった。そうした人々の輪の中に、マウラーナがいた。やがて人々は一つの同じ旋律を繰り返し歌い始めた。

与えられたものに満足せよ
カーネリアン、ルビー、
あるいはただの石ころであっても
全て御方の心ひとつによるもの

ならば御方の心ひとつに縋ろう
真実ひとつに縋ろう、虚偽ではなく

フランクに交わってフランクであれ
ダルヴィーシュに交わってダルヴィーシュであれ

真実ひとつに縋って真実であれ、虚偽ではなく


長い旅路の果てに、裕福な商人がタブリーズからコニヤにやって来た時のことである。彼はマウラーナの館と、道場を訪ねた。そして以前にフランクの居住区で出会った、青い眼をしたフランクのダルヴィーシュからの伝言をマウラーナに伝えた。

彼はまた、マウラーナの弟子達に与え得る限りの布施をした。彼の商売は今までも順調だった。これからもそうであるように、彼は祈った。そしてコニヤを去る時には、商人はマウラーナを敬愛する弟子の一人となっていた。

『Manaqib al-Arifin』とは『聖人伝』の意です。ここで読んでいるのは、「アフラーキーのマナーキブ」と呼ばれるものです。ルーミーの幼年期から青年期のこと、生前に内輪の人々に向けて語った言葉や講義などを、ルーミーの孫であり弟子でもあったチェレビーの指示のもとに、やはりルーミーの弟子だったアフラーキーが書き記したものです。