『回教概論』

回教概論 (ちくま学芸文庫)

回教概論 (ちくま学芸文庫)

筑摩書房から8月に出版されました。(復刊というのかな?)

英語で書かれたイスラム文献の著作権切れラッシュのようなものが、20世紀の終わり頃から始まっています。良書や古典が、html化されてウェブ上でも自由に閲覧できるようになってうれしいです。

本書の著者大川周明氏も、没後50年が経過したばかりです。筑摩書房の紹介ページにもある通り、「イスラム研究の最高水準をいっている(竹内好)」解説書です。「アジア主義啓蒙の気概」についてはちょっと違うように思いますが。

戦前に収集されたイスラム関係文献その他資料は、戦後GHQの指導の下で多くが処分ないし離散してしまった、という記述を、古い世代の日本人イスラム改宗者の回顧録や研究者の著作などにしばしば見かけます。離散してしまったのは貴重な文献だけではなく、学問の手法そのものでもあるのではないかとも思います。

日本には日本独自のイスラム研究がある、と言ったところで実際にそれが日本「以外」のところでどれほど価値があると言えるのでしょうか。そもそもそこで言われている「日本」というのが、一体何を指しているのかも良く分かりません。(世界を『西洋』と『イスラ"ー"ム』の二つに分けて、そのどちらともうまくやっていますよ、というポーズのための「日本独自」云々、ということなら分かります。)

戦後の、そのような「日本独自の」イスラム研究に基づく解説書を100冊読むよりも、本書を1冊通読する方がよほどためになりますし、時間とお金の節約にもなります。