『バハーウッディーンの教え』

しばらくの後、マウラーナ・ジャラールッディーンは再びルームへ向かう旅に出た。カイセリに到着したとき、町の有力者達はマウラーナの訪れを栄誉と考え、彼を歓待した。サヒーブ・イスファハーニーはマウラーナを自らの私邸に招きたがった。だがブルハヌッディーン導師が、学生のための寄宿舎か、修行者達のための道場に逗留するのが家訓であるとマウラーナに教え込んでいたため、イスファハーニーの願いは叶えられなかった。

多くの人々が、教えを乞うてマウラーナを訪問した。息をつく間も与えられず、たまりかねたマウラーナは「お籠り」と称して自室から一歩も出てこなくなった。マウラーナの、孤独を愛する側面を認めたブルハヌッディーン導師は、マウラーナにそれまでとは違った学問 ー タサッウフ(注)すなわち瞑想と神秘道の修行 ー を勧めた。そして彼が昔一緒に学んだ人物に共に会いに行こうとも言った。それはマウラーナにとって一種の天啓だった。

ブルハヌッディーン導師は、父の弟子でもあった人物だ。生前の父は様々な学問をマウラーナに伝授したが、ただひとつその「道」についてはなぜか明かすことを避けた。その父に、神が「会いに行け」と命じているように思えた。自分の中で何かがうごめいているのを感じた。それは偉大な父バハーウッディーンのようでもあった。ブルハヌッディーンと共に、マウラーナは飛び立つように新たな道を求めて旅立った。

バドルッディーン導師(ブルハヌッディーン導師の友人)は、最初の修行としてマウラーナに慣例通り7日間の断食を命じた。「それでは足りない」とマウラーナは言った。そして40日間の断食と瞑想を行うつもりであることを導師に告げた。一日も早くこの段階を脱し、ブルハヌッディーンに追いつきたかった。ブルハヌッディーンは、大麦を焼き固めたものをほんの少しだけ食べる。朝は水を少し、本当に必要な分だけ飲む。それがブルハヌッディーンの毎日なのだった。

40日間の修行の間に、彼はこれまでに行ったこともない世界と、不思議の数々を見た。修行者のための小さな居室に閉じこもっていることを忘れ、マウラーナは広大な宇宙に浮かんでいるのだった。

40日が過ぎ、一番最初のマウラーナの居室に入ったのはブルハヌッディーンだった。彼はマウラーナが深い瞑想の裡にいるのを見た。ブルハヌッディーンはマウラーナの思考がどこにあるかを探り当てた。マウラーナは「平常心」の階梯に佇んでいた。


それが何であれ、全てはおまえ自身から生ずる。
求めよ。必ず与えられる。
おまえの内に、おまえの探すものがある。
全てはおまえのために用意されている。

マウラーナの静かな確信を見てとったブルハヌッディーンは、マウラーナを残して居室を去った。そのまま次の40日間の断食に入ることを、マウラーナが望んでいるのが理解できたからだった。

次の40日が過ぎて、再びブルハヌッディーンがマウラーナの居室を訪れると、そこには礼拝をするマウラーナがいた。マウラーナの頬に涙が川となって流れていた。誰が訪れようと、礼拝に没入しきり神を讃える修行者には全く関係のないことだった。ブルハヌッディーンは何も言わずにきびすを返して居室を去った。マウラーナに、第3の40日間をそのまま過ごさせるためだった。

40日間が過ぎ、ブルハヌッディーンは再びマウラーナの居室を訪れた。導師はマウラーナの健康状態を危惧していたが、つとめて大きな音を立てて扉を開けた。それはマウラーナの覚醒を意識してのことだった。ブルハヌッディーンが声をかけると、マウラーナは顔をあげた。マウラーナはほほえんでいた。唇の両端が持ち上がっており、彼の表情をいっそう穏やかなものにしていた。彼のふたつの目は、そのままふたつの「喜びの海」だった。

「導師よ、あなたの目に私の目が映っている。あなたの目はあなたの愛する者を映し、私の目もまた愛する者を映している。お互いの目が無限の反射を繰り返す。これでは部屋中が愛する者 ー われらが主 ー の残像でいっぱいになってしまう」

マウラーナが心から楽しそうにそう言うのを聞いて、ブルハヌッディーンも心から喜んだ。導師は弟子に祝福の言葉をかけて、それから言った:「存在する生命の全てがそうするように、これで学ぶべきことはすべて学びつくした。だが深奥に隠された秘密は、全ての者に明かされるわけではない。その秘密を知った今となっては、墓の中の聖者達も夜をさまようジン達も、おまえを妬まずにはおられまい」それからブルハヌッディーンは、マウラーナに課された使命について説いた。人々に知識を分け与え、心の灯心に火を点すこと。愛を探求する者達を導くこと。

導師の言う通り、コニヤに戻るとすぐにマウラーナは教師としての人生を歩み始めた。そのころから、彼はアラブ風のターバンを頭部に巻き、ゆったりした袖の長衣を着るようになった。それは彼の時代にはそぐわない古風な装いだったが、学者がかつてそうしていたという伝統的な衣装をマウラーナは復活させたのだった。

程なくしてブルハヌッディーンが楽園へと旅立った。マウラーナはカイセリを訪れ、導師の魂のために祈りを捧げた。そしてすぐにコニヤに戻った。

そして丁度その頃、マウラーナはシャムス・タブリーズィー ー ダルヴィーシュ(托鉢の修行者)達の首魁と呼ばれる人物 ー に再び出会うことになる。

伝えられるところによると、シャムス・タブリーズィーはかつてシェイフ・アブー・バクルタブリーズィーに師事していた。アブー・バクルタブリーズィーは、元は籠編み職人だったが、その霊知によって広く知れ渡っている人物だった。シャムスは導師の許で多くを習得したが、彼はそれでも満足しなかった。シャムスは「もっと、もっと高く飛ぶ」ことを欲し、居場所を定めず放浪の旅を続けていた。もう何年、旅を続けているのか本人も知らない。人々は彼を畏怖した。そして彼を「放浪者シャムスッディーン」と呼んだ。




『Manaqib al-Arifin』とは『聖人伝』の意です。ここで読んでいるのは、「アフラーキーのマナーキブ」と呼ばれるものです。ルーミーの幼年期から青年期のこと、生前に内輪の人々に向けて語った言葉や講義などを、ルーミーの孫であり弟子でもあったチェレビーの指示のもとに、やはりルーミーの弟子だったアフラーキーが書き記したものです。

(注)タサッウフ・・・スーフィズムイスラム神秘主義