『秘宝の探求者』

ルームの地コニヤに到着した彼は、菓子や砂糖を売る店の立ち並ぶ通りの一角にある旅宿に間借りした。彼はその部屋に高価な錠前を取り付け、目の詰まった羊毛のターバンの端に鍵をくくりつけてぶら下げた。それは彼をいかにも裕福な商人のように見せたので、コニヤの人々はこの見慣れぬよそ者に警戒することもなかった。実際のところ彼が寝泊まりするのは別の場所で、そこには藁の敷き物とれんがの枕、半分欠けた土器がひとつあるだけだった。彼はその土器で全てをまかなった。命をつなぐのに必要な分量の大麦を噛み、水を飲んで過ごした。

また、これも言い伝えられているところによると、その日、流浪の賢者 ー シャムスッディーン・タブリーズィー ー が、間借りしていた旅宿の門前に座していた時のことである。彼はマウラーナを見た。マウラーナは俊足の駱駝の背に乗り、鏡商の通りから姿を現した。その後ろに、学生や弟子と思われる者達が、駱駝の歩みと並んでぞろぞろとついてくるのが見えた。シャムス・タブリーズィーは駆け出した。マウラーナの駱駝に追いつくと、鞍をつかんで言った:「隠された財宝の在処を知る者よ、答えてはくれまいか ー 預言者ムハンマドと、バーヤズィード(注)と、どちらの方がより優れているか?」
「違う、違う」マウラーナは即答した。「比較にもならない ー 神の御使いであるムハンマドの方が何倍も優れている。全ての預言者と聖者の、ムハンマドは導き手なのだから」そして、次のような古詩を引用した。


幸いなるかな、われらが大地
われらの命にかけても守ろう
キャラバンの長はムハンマド
この世の栄誉は全て彼のもの

それを聞いてもなおシャムスッディーンは問うことをやめなかった。「預言者ムハンマドが『讃えあれ、神よ、恵みたまえ、あなたの光を』と請うたとき、バーヤズィードは『讃えあれ、授けられたるわが階梯に、我は王の王なり』と言ってのけたぞ」

シャムスィ・タブリーズがそう言うのを聞くが否や、マウラーナは駱駝の鞍から降りた。そして無言で涙をこぼした。彼はしばらくの間そうしていたが、 ー そこにあるのは彼の体だけで、意識はどこか遠くへあったのかも知れない ー 静かに泣いている賢者の周りを、道行く人々が取り囲み始めた。やがて「戻った」彼は、シャムスに答えて言った。「バーヤズィードの『渇き』は、たった一杯で癒された。それが彼の能力の限界だったのだ。彼の心の扉は、狭い割れ目から差し込むほんのわずかな神の光に満足してしまい、光を求めることもなく閉じたのだ。預言者ムハンマドの『渇き』には限界というものがなかった ー 彼は神を際限なく求めた。その先はコーランにもある通りだ、 ー われはおまえの胸を拓かなかったか、と。預言者ムハンマドの『渇き』に応じて、神もまた彼の胸を際限なく押し拡げたのだ。神に限界はなく、従って彼の胸もまた限界を知らない。ゆえに彼はバーヤズィードのみならず、その他のいかなる預言者、聖者よりも優れている。」
「神の愛を求めずにはおられぬ ー 実際、そのような衝動の根源にあるのは『渇き』に他ならない。何かが足りていない、というその一点に気づかぬ限り、人は求めようともしない。そしてその『渇き』は、気づいてしまえばそう簡単に癒されるものではない」

そう言うと、マウラーナは駱駝をその場に残して修道場へと徒歩で帰った ー シャムスッディーン・タブリーズィーと共に。そして修道場の回廊を抜けて、ひっそりと静かな離れ家に閉じ篭った。そしてそのまま、40日間一度も外に出てこようとはしなかった。別の者の言い伝えるところによれば、隠遁生活は3ヶ月以上続いた。

ある者が伝えるところによれば、マウラーナはこう言った:「シャムスィ・タブリーズが私にあの『質問』をしたとき、私の頭の上のどこかで窓が開かれた。そして開かれた窓の中へ、空の上から薔薇の香りが吹き込んでくるのを感じたのだ」

シャムスィ・タブリーズのその『質問』が与えた衝撃はそのようなものだった。マウラーナは講義をやめ、説教をやめ、全てを放棄した。そして与えられた時間の全てを、彼の前に突然現れた神秘主義者と共に神秘の探求に費やし、 ー そして一編の詩を書いた。


水銀が星のようにきらめき飛び散るように
私の分子の全ても宇宙に飛び散って消えた
私は酔った、どれほどの間酔っていたのか
酌する者の額に記された秘密の言葉を見て
私は再び杯を重ねる、今度はただ酔うため
私の筆は砕け散った、ただ愛の陶酔のため


『Manaqib al-Arifin』とは『聖人伝』の意です。ここで読んでいるのは、「アフラーキーのマナーキブ」と呼ばれるものです。ルーミーの幼年期から青年期のこと、生前に内輪の人々に向けて語った言葉や講義などを、ルーミーの孫であり弟子でもあったチェレビーの指示のもとに、やはりルーミーの弟子だったアフラーキーが書き記したものです。

(注)バーヤズィード・・・バーヤズィード・バスターミー。初期のイスラム神秘主義の導師。874年没。