『花束を届けに来た六名の客人』


さて、ここにマウラーナの妻がいる。名をキラ・ハトゥンといい、イエスの母のように敬虔で厳正な女性だった。彼女が語るところによれば:

『ある冬の日のこと、私はマウラーナが休息しているところを見かけました。彼は横になり、シャムスィ・タブリーズィ導師の膝に頭を預けておりました。預けられるがままに、導師はじっと座しておられました。

その光景は、回廊の、ほんの少しだけ開いた扉の隙き間から見えてしまったのです。反対側の壁の、あるはずもない扉が開きました。そしてその扉の向こう側からこちら側へ、得体の知れない異形の人々が姿を現したのです。彼らは全部で六名おり、次々にマウラーナにお辞儀をしました。そして大きな花束をマウラーナの前に置きました。彼らはその日の午後遅くまで、そこでマウラーナや導師と共に過ごしたようでしたが、その間も回廊からは誰の声も聞こえてはきませんでした。

やがて礼拝の時が告げられ、マウラーナはシャムス導師に礼拝の先導をするよう合図しました。導師は、「稀なる客人」の前で礼拝するのは憚られる、と仰ったようでした。それでマウラーナが礼拝の先導を務めるために立ち上がると、六名の異形の人々は深々とお辞儀をしてどこかへ消え去ってしまいました』

望むと望まざるとに関わらず、不思議の証人となったことはキラ・ハトゥンを混乱させた。彼女は続けてこう語った:『あまりのことに私はしばらく呆然としておりました。気を失っていたのかも知れません。気がついたときには、夜も更けていました。マウラーナは私の隣におりました、手にはあの大きな花束を持って。そしてその花束を私に与えて、こう言いました、ー 私はきっと(花束を)大事にするだろうから、と。

私は花びらを数枚、植物や薬草を扱う庭師たちに送り届け、調べてくれるよう頼みました。彼らは口々に言いました ー このような花は今までに見たことがない、どこの産なのか教えて欲しい。彼らはまた、花びらの放つ香りと色、そして造化の繊細さに深く感じ入っているようでした。何よりも、この真冬の空の下、どのようにしてこの花々が咲いたのかを不思議がっておりました』

彼ら庭師の頭領というのが、貿易のためしばしばインドにも渡ったことのある人物だった。彼も植物に非常に詳しく、あちらへ出かけるたびに目新しい香草や植物、また植物学の書物などを大量に持ち帰ってくるのであった。

彼が言うには、その花々はインドのものであるとのことだった。インドの最南端、サランディブ(セイロン)の近くで育つ花だという。だから花自身は不思議でもなんでもない。不思議なのは、この花が冬のまっただ中のルームにあるということだ、しかもたった今咲いたといわんばかりの瑞々しさで。一体どうして?彼が知りたがった。キラ・ハトゥンには答えられなかった。

やり取りの一部始終を知ったマウラーナはキラ・ハトゥンに言った。(花束を)大事にするように。損ねぬように。花束の秘密については誰にも知らせてはならない。「その花を届けてくれたのは、インドの聖者たちである。彼らには彼らの楽園があり、彼らはその番人を務めている。その花束はあなたへの贈り物として届けられた ー あなたの心の楽園の飾りとなるように、あなたの敬虔さと厳正さの飾りとなるように。神を讃え、花を大事に取り扱いなさい。花から目を放してはいけない。あなたがそうと望まぬ限り、その花は決して枯れはしないし、あなたに害を与えたりはしない」

キラ・ハトゥンは花を見守り続けた。一度だけマウラーナの許しを得て、何枚かの花びらと葉をスルタンの妻カルヒ・ハトゥンに分け与えた。眼が痛むとき、その花びらでまぶたをぬぐうと、たちまち痛みが去るのだった。

季節は何度も変わったが、花束の色も香りも決して褪せることがなかった。キラ・ハトゥンははるか遠いインドの地に思いを馳せた。彼の地の聖者たちが楽園を見守り続ける限り、この花束もまた決して枯れることはないのだろう。キラ・ハトゥンはそう理解した。


『Manaqib al-Arifin』とは『聖人伝』の意です。ここで読んでいるのは、「アフラーキーのマナーキブ」と呼ばれるものです。ルーミーの幼年期から青年期のこと、生前に内輪の人々に向けて語った言葉や講義などを、ルーミーの孫であり弟子でもあったチェレビーの指示のもとに、やはりルーミーの弟子だったアフラーキーが書き記したものです。